つりどりみどり。

釣るし採るし観察するし撮影するし、なんなら文献も漁る。

農業が隔離したオショロコマ個体群の話

農業が生息エリアに進出してきたサケ科魚類なんて、北海道でしか見られないんじゃなかろうか。

これもまた後志の羊蹄

真狩川が有名だけれど、後方羊蹄山山麓にあちこち湧き水(アイヌ語でいう”メム”)があって、いわゆるスプリングクリークを形成している。

だいたい、だらっとして抑揚のない安定した流れ(真狩川)

水量の多いところは水源地として使用されている。綺麗な水が安定的に手に入るので、この地域は浄水設備のコストがかからないらしい。水も必要最低限の殺菌処理をしてるだけだとか。

実際、この地域の水道水は、カルキ臭さがなくて本当に美味しいんですよ。

山麓には湧水公園が二つもあるし、蕎麦やうどんの店も何件もあるし。

湧き水の恩恵を受けているのは農業用水も例外ではなくて、真狩川にはそういう用水用のパイプが何本も入っているし、用水路も作られている。

そんな風に使われている湧水河川の一つに、比較的大きな取水堰があるのを知った。

過去の地図を調べた限りでは、少なくとも1969年ごろには存在したらしい。この時代、堰やダムに「魚道」なんてものを作るとは思えない。ということは、50年以上にわたって川がほぼ分断されていることになる。

隔離された魚に、何か面白いことが起こっていたりはしないだろうか。

ある年の10月に探索してみることにした。

まずは堰の上流部へ

さて、件の川までやってきた。

フライ釣りはほぼ不可能ですね。ヤブ川過ぎて…

まずは取水堰の上流に入って、岸から水中を見てみ

いたよ。

池のコイかなんかなの?

本当、どうということもなくいらっしゃりますね…えらくリラックスしてるよ。これ撮ってるの、スマートフォンなんだけど、逃げる気配がない。

シマフクロウとかがいないと、こんなもんなのだろうか。カワセミかヤマセミくらいいると思うんだけど。

軽くフライを投げてみると、やっぱり一発で釣れた。

小さい。

ただ小さいだけじゃなくて、なんというか...寸詰まりな気がする?

あと、朱点が大きくて数が少ない。

もう一匹釣ってみたけど、やっぱり頭身低いよね。

口吻の先からエラブタの端までを「頭」として...だいたい5頭身ちょいくらいだろうか。

参考に、真狩川の個体について再掲。これは特に頭が小さい個体なんだろうと思うけど、6頭身強くらいはある。

もうちょっと大きい個体はいないのか。

結構大きい。頭身を見てみると、だいたい同じくらいか。

しかしさっきから気になってたこととして、色合いがちょっと地味。

撮影時の光の関係かとも思ったけど、

同じように太陽光に照らして撮影した真狩川個体がこれだからね。やっぱりくすんだ感じの色合いになってるのは否めないと思う。まあ、渋くていいけど。

では、水中撮影に切り替えましょう。

おお、結構いる。

個体ごとに程度の違いはあるけど、やはり色合いは地味渋めな気がする。

撮影をしたのは10月だったので、繁殖期が近いことも関係あるか。

色彩の季節的消長についての基礎データって見たことないんだよなあ...

ここの他にもいくつか数十匹単位の群れを見つけた。とりあえず、ここの個体群は安泰なようだ。

堰の下流

上流部分は十分探したので、次は取水堰の下流にくだってみた。

奥に見えるのが取水堰

堰に魚道のようなものは見当たらない。水はゲートを超えて垂直に落ちているため、魚がこの堰を超えて遡上するのは、ほぼ不可能と思われる。

やはり、この川の魚は、堰の上と下で、もう50年以上隔離されていることになる。

水中にカメラを入れてみる。

まずはヤマメ

アメマス(エゾイワナ)も

ヤマメの数が目立つ。この下には人工構造物はなく、尻別川本流につながっているから、サクラマスも遡上が可能ということだ。9月ごろに来れば、産卵する親魚が観察できるかもしれない。

堰の上流に居なかったのは、河川に残留する個体では繁殖ができなかったということか。

アメマスも確認。堰の上では見なかったが、もしかしたら違う場所にいるのかもしれない。もう少し探索が必要なようだ。

しばらく撮り続けていると、見慣れた朱点がモニターに入ってきた。

…あれ?

なんか赤くない?

アップにしてみた

心なしか、朱点も鮮やかな気がする。なんだこれ。

地味な渋い色彩の奴もいるんだよね(とはいえ、透明度が少し低いこともあって不明瞭なだけかもしれない)。

魚は上から下へ落ちることは簡単だから、そういうのが混ざっているのか。

派手なのは単なる外れ値みたいなものなのか。

もっと上手を探れば、また違う色彩の個体群が居るのか。分からん。

 

掘ってもいいかもしれない

堰の上と下はほぼ隔離されているといっていいと思う。まあ用水路を遡ってくる個体が居れば別だけど。

ただ、表現型に何か明確な差があるかどうかは、正直何とも言えない。

ただ、尻別川の支流ごとで比べると違いはありそうだ…統計的にそうなるかはわからないけど、感覚として。

科学的価値はどうでも、視覚的な面白さは見いだせるんじゃないでしょうか?尻別川流域に淡水魚水族館でもあればなあ。水の確保には何の問題もないんだし。

今度この川に来るときは、なるべく多くの個体を捕獲して、同じ条件下で写真を撮るとかしておきたい。「赤み」みたいな色彩の違いを数値化できれば、分布くらい出せるかも。

あと、個人的に気になったのはアメマス。河川残留型だけで繁殖できるはずなので、堰の上流にいなかったのは違和感がある。

「堰の作られた当時、オショロコマの勢力圏が今よりずっと下流まで広がっていてアメマスの入る余地がなかったのでは」みたいな妄想が浮かんでくるけど、上流で探索してからだな。